資金調達のシリーズやラウンドとは?各ラウンドにおける調達額の目安や調達方法も解説
目次(表示する)
ラウンドとはスタートアップ企業の成長段階を示す指標
「投資ラウンド」または「資金調達ラウンド」とは、スタートアップ企業の事業段階を指します。スタートアップ企業の事業段階は外部からわかりづらいため、「ラウンド」というフェーズ分けによってスタートアップ企業と投資家の間で共通認識を持ちやすくします。
なお「投資ラウンド」は投資家目線の表現であり、「資金調達ラウンド」は資金調達を行うスタートアップ企業目線の表現です。意味に違いはありません。本記事では「資金調達ラウンド」に表記を統一します。
資金調達ラウンドは一般的に次の6段階に分かれます。
- エンジェル
- シード
- プレシリーズA
- シリーズA
- シリーズB
- シリーズC以降
上記のように「シリーズ」はラウンドの種類です。「シリーズA」、「シリーズB」などアルファベットをつけて表します。
各ラウンドの特徴
ステージ | シード | アーリー | ミドル | レイター | ||
---|---|---|---|---|---|---|
ラウンド | エンジェル | シード | プレシリーズA | シリーズA | シリーズB | シリーズC以降 |
特徴 | 起業前後 商品のリリース前後 |
PMF実現前後 | UE成立済 | 上場準備段階 | ||
調達額の相場 | 数千万円 | 数千万~数億円 | 数千万~数億円 | 数億~数十億円 | 数億~数十億円 | 数十億円~ |
調達期間 | ~1ヵ月 | 数ヵ月 | 数ヵ月 | 半年程度 | 半年以上 | 半年以上 |
上の表のとおり、ラウンドの大きなくくりとして「ステージ」があります。各ステージと各ラウンドの関係は以下です。
- シードステージ
- エンジェル
- シード
- アーリーステージ
- プレシリーズA
- シリーズA
- ミドルステージ
- シリーズB
- レイターステージ
- ステージC以降
ステージとラウンドの定義はあいまいな部分があり、全ての企業が各ラウンドに厳密に当てはまるわけではありません。大まかな目安として参考にしましょう。
エンジェルラウンド
エンジェルラウンドはまだ起業前で、製品やサービスのアイデアのみがある状態です。ビジネスを始める準備段階といえます。
シードラウンド
シードラウンドもまだ起業の準備段階です。一般的にはビジネスモデルを定め、法人を設立し、市場調査を行ってプロトタイプを制作しているような段階です。
プレシリーズA
起業後、プロトタイプをユーザーに提供し、製品やサービスの改善を重ねながら市場で戦っていけそうか検証している段階です。事業はまだ軌道に乗っておらず、売上が立つまでは費用だけがかかり続けるので、企業にとっては正念場ともいえます。
シリーズA
プレシリーズAにて製品やサービスが市場で通用するか検証できた次の段階として、ユーザーの増加や売上を拡大するフェーズです。マーケティングやブランディングによって企業・商品の認知度を高め、新規ユーザーの獲得を目指します。
またシリーズAではPMFの実現も重要なマイルストーンです。PMFとはProduct Market Fitの頭文字を取った言葉で、直訳すると「製品が市場に適合する」となります。つまり自社の製品・サービスが求められる市場がある、顧客に製品・サービスが売れている状態です。
シリーズB
PMFが実現でき、事業や経営が軌道に乗り始める段階です。更なる売上の拡大や新規顧客の獲得、また採用活動や商品の追加開発なども積極的に行っていきます。
シリーズC以降
シリーズBまでで既存事業の拡大に成功し、上場やM&Aでのイグジットを具体的に意識する段階です。イグジットまでの時価総額を上げるべく、非連続成長を実現するため、新規事業・海外展開・事業買収といった新たな打ち手を仕掛けます。
シードラウンドの資金調達
先述のとおりシードラウンドは起業の準備段階のため、起業に必要な資金やプロトタイプの開発資金などが必要です。
シードラウンドにおける資金調達額
シードラウンドでは具体的に必要な資金は次のようなものです。
- 法人設立にかかる資金
- 市場調査にかかる資金
- プロトタイプの制作資金
- 人件費・オフィス賃料
チームの人数も10人に満たないケースが多く、調達額としては数千万円ほどが目安です。ただし、事業領域によっては数億円調達する場合もあります。また、資金調達に必要な期間は数ヵ月程度です。
シードラウンドにおける資金調達方法
シードラウンドでの資金調達方法は主に4種類あります。
- エンジェル投資家からの出資
- ベンチャーキャピタルからの出資
- 補助金や助成金の利用
- 政策金融公庫からの融資
なお、ベンチャーキャピタルについては、シードラウンドに特化した先が対象となります。
シードラウンドの資金調達は「少額ずつ幅広く集める」ことがポイント
シードラウンドの段階ではまだ製品も売上実績もないため、出資を断られる場合も往々にしてあります。もし出資してもらえたとしても、大きな金額は望みにくいでしょう。ひとつの手段で必要な額全てを調達するのではなく、複数の調達先から少しずつ調達しましょう。
また前述の1~3の調達方法であれば、返済の義務がありません。売上が立ちづらく収益を得にくいシードラウンドにおいて、経営の負担になりづらい調達方法といえます。
またエンジェル投資家やベンチャーキャピタルから出資を受ける場合、株主として経営に大きく関与されるかもしれません。株主の入れ替えは容易でないため、出資者を慎重に選び、良い関係を築くことも大切です。
シリーズAの資金調達
シリーズA以降のラウンドでは、資金の調達方法として種類株式の発行が選択肢に入ってきます。シードラウンド以前に比べて、より多くの資金が必要になるためです。
種類株式とは、普通株式とは異なる権利を持った株式です。特にスタートアップ企業においては、配当や残余財産の分配で優先権のある「優先株式」が発行されるケースが多く見られます。投資家にとって有利な条件を付与することで投資するメリットを強め、企業にとっては資金調達がしやすくなります。
また1回目の調達は「A種優先株」、2回目を「B種優先株」など、優先株式はアルファベットのついた名称で発行されることが多く、「シリーズA」というのは優先株式のアルファベットが由来です。
シリーズAにおける資金調達額
シリーズAは売上の拡大を目指す段階です。新規ユーザー獲得や製造開発ラインの拡大にかかる費用が必要となってきます。具体的には次のような費用が発生します。
- マーケティング費
- 人件費、人材採用費
- 設備投資費
調達額は、2年分のランウェイ(資金が底を突くまでの期間)を確保することが目安となっており、資金使途によって数億から数十億円程度です。調達にかかる期間は、リード投資家の選定や優先株式の条件交渉などにより、シードラウンドよりも長くなり、半年ほどかかるでしょう。
シリーズAにおける資金調達方法
シリーズAでの資金調達方法は主に3種類です。
- ベンチャーキャピタルからの出資
- コーポレートベンチャーキャピタルからの出資
- 金融機関からの融資
コーポレートベンチャーキャピタルは、投資を本業としない事業会社による投資組織です。自社との相乗効果を得る目的でスタートアップ企業やベンチャー企業へ投資します。
また金融機関からの融資では返済義務が発生します。返済期間は5~10年ほどと長めであるため、無理なく返済できる金額で融資を受けましょう。
シリーズAの資金調達は「早めの動き出し」が重要
シリーズAは製品をリリースし、事業が大きく成長する段階です。まだ手元の資金は少ないものの、特に製品のリリース後は想定外のコストが発生して資金繰りが苦しくなる可能性も十分にあります。必要な金額もシード期より多額になるため、焦って交渉して不利な条件で契約しないよう注意が必要です。
またPMFを実現できている・実現が見えていることも重要です。PMFが見えていなければ売上や業績の成長性を把握しづらく、希望する投資額を得られない可能性があります。
シリーズB以降の資金調達
シリーズBもシリーズAと同様に、発行する優先株式の名称(B種優先株)についているアルファベットから「シリーズB」と呼ばれています。優先株は先に発行したものよりも、後から発行したもののほうが優先されることが一般的です。
シリーズB以降における資金調達額
シリーズB以降は事業が安定しており、シリーズA以上に売上を伸ばすための資金が必要です。シリーズCに進めば、企業によっては事業の海外展開などを進める場合もあります。シリーズB以降では具体的に次のような費用が必要になります。
- マーケティング費
- 人件費、人材採用費
- 研究開発費
資金調達額も数億円~数十億円の規模になるでしょう。金額が大きくなる分、デューデリジェンスにかかる時間も長くなるため、資金調達には半年以上かかります。
シリーズB以降における資金調達方法
シリーズB以降はUE(ユニットエコノミクス)の成立により、シリーズA以前では難しかった方法も選択肢に加わります。UEとは、顧客1人当たりの採算性を示す指標で、UEが成立しているとは、事業が健全である、すなわち事業拡大するほど利益が上がる仕組みになっている、ということです。
- ベンチャーキャピタルからの出資
- コーポレートベンチャーキャピタルからの出資
- 事業会社との資本業務提携
- 金融機関からの融資
- ベンチャーデット
ベンチャーデットとは、伝統的な融資のように、企業のキャッシュフローや担保に依存して審査するのではなく、将来的な資金調達に着目して融資可否を判断する、デット(負債性)調達手段を指します。例として、新株予約権付融資や社債発行が挙げられます。欧米では、ミドルステージのスタートアップにとって有力な調達手段として広く認知されています。
また、シリーズC以降になると、シリーズB以前の方法に加えて、株式公開(IPO)による資金調達が視野に入ってきます。
シリーズB以降の資金調達は「事業計画の緻密化」が肝要
シリーズB以降は、PMFを達成し、マネタイズが見えている状態から、多額の資金を投下して事業の規模を一気に拡大させる段階です。したがって、調達額に見合った、的確で緻密な事業計画が求められます。更なる市場の成長性や競合他社にない独自の強みを説得力を持って示せることも重要です。
まとめ
ひと口にスタートアップ企業といっても、製品・サービスのアイデアしかない段階からイグジット目前の段階まで、該当するステージはそれぞれ異なります。ラウンドを追うごとに事業の規模と必要な資金は大きくなっていきます。起業初期は売上や実績が少なく、社会的信用も小さいために資金調達の方法は限られますが、成長を積み重ね、イグジットを実現できるよう、各ステージに合った適切な資金調達方法を採用していきましょう。