社債の格付けはなぜ必要なのか?投資判断への用い方と格付会社による違い
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社債を購入する際、判断基準のひとつとなるのが「格付け」です。格付けは債券や発行体の信用状態をランク分けしたものです。しかし、この格付けをどう見れば良いのか、またどのように投資判断に使えば良いのか分からないという方も多いのではないでしょうか。今回の記事では、社債を格付けする理由や格付けの見方、代表的な格付会社について紹介します。
格付けとは債券や発行体の信用力を評価した指標
社債は、保有することで継続的に一定の利益を得るインカムゲイン型の金融商品です。株式と比較すると安定したリターンを期待できますが、当然ながら一定のリスクはあります。社債投資におけるリスクのひとつが、信用リスクです。信用リスクとは、デフォルト(債務不履行)に陥り、元利金の支払いが行われない可能性を意味します。
デフォルトのリスクを判断する、すなわち信用力を把握するための指標として用いられるのが「格付け」です。
格付けは債券の元利金の支払いの確実性や、発行体の債務履行能力の確実性をランク分けしたものです。
定義からわかるように「格付け」には、個々の債券に対する「個別格付け(または債券格付け)」と、債券を発行する企業や国家、地方自治体などに対する「発行体格付け」があります。個別格付けは発行体格付けを元にしていますが、必ずしも同一になるわけではありません。例えば劣後債のように弁済順位が異なる債券は、元利金が満額回収できないリスクを加味して格付けが付与されるためです。
格付けは専門の格付会社によって行われ、「依頼格付け」と「勝手格付け」の2種類に大別されます。
- 依頼格付け:債券の発行体から依頼を受けて行う格付け
- 勝手格付け:格付会社が独自に行う格付け
社債の格付けは、社債を発行する企業を調査、分析した上で評価され、一般的にはAAA格からD格というように、アルファベットを用いてランク分けされます。
格付けが高い(信用力が高い/信用リスクが小さい)ほど利回りが低く安定的、格付けが低い(信用力が低い/信用リスクが大きい)ほど利回りが高く投機的とされます。
社債の格付けを行う理由
社債の格付けは発行体側、投資者側双方に意義があります。
発行体は格付けによって社債の発行コストを抑えられる可能性がある
発行体である企業にとって、格付けは社債発行コスト(資金調達コスト)を決めるにあたっての重要な判断基準のひとつになります。
格付けが高ければ信用リスクが小さい債券と見なされるため、利回りを低く設定でき、支払う利息額を抑えられます。
投資家は格付けによって社債投資の判断材料が増える
投資家にとって格付けは、社債購入にあたっての判断材料を増やすために活用できます。世の中に出回る発行企業に関するありとあらゆる情報を収集した上で投資判断を行うのは現実的に難しい中で、一定の基準に基づいた調査・分析を格付会社が行った結果として、格付けが付与・公開されているからです。
更に具体的には、前述の利回りと格付けの関係性から、投資目的やリスクの許容度に合わせて自分が購入すべき社債を選択できます。また格付けは、信用リスクの大きさに見合わない低利回りの社債を避けるための参考材料になります。
加えて、保有中の社債の格付けが変更となった場合は、保有し続けるべきかの判断材料として利用可能です。特に格下げになった場合には、購入時と比べ保有し続けるリスクが高まったことを意味しますので、満期前の売却も選択肢のひとつです。
「投資適格なら安全」ではない—社債の格付け定義一覧
それでは、社債の具体的な格付け表記とその内容を見ていきましょう。
格付けは基本的にアルファベットで表記されますが、格付会社によっては数字や記号も合わせて用いることがあります。また、格付会社ごとに定義も若干異なるため、同じ債券・発行体でも別の格付けが付与されることもあります。
ここでは格付投資情報センター(R&I)の長期個別債務格付け(債務完了期日までの期間が1年以上のものに対する個別格付けを表し、通常個別格付けと呼ばれるものに該当)を紹介します。なお、発行体格付けなど他の種類の格付けでは、やや表記や定義が異なります。
※参考:格付投資情報センター(R&I) 格付符号と定義
上記の定義のうち、AAA(トリプルA)格からBBB(トリプルB)格は「投資適格格付け」に分類され、比較的信用力が高いとされます。一方でBB(ダブルB)格からC格は「投機的格付け」とされ、比較的信用リスクが大きいとされます。
ここで注意したいのが、格付けはあくまでひとつの指標であるということです。投資適格格付けは社債投資の利益を確約するものではありません。また、投機的格付けの社債が必ずデフォルトするわけでも、購入してはならないわけでもありません。
社債を購入する際には、格付けだけではなく投資目的やリスクの許容度も考慮しながら、自分自身で判断することが重要です。
ちなみに、格付記号の末尾に+(プラス)記号または-(マイナス)記号が付加されることがあります。これは、同一格の中でも、上位格に近いものにプラス、下位格に近いものにマイナスの表示を行っているものです。例えば、A+、A、A-のような形でAを3段階評価します。
代表的な格付会社
格付けを付与し公表する業務を専門的に行っているのが格付会社です。格付会社は格付機関と呼ばれることもありますが、いずれも民間企業です。
ここでは代表的な格付会社として金融庁に登録を受けた「信用格付業者」を、外資系・日系に分けて紹介します。
米国でのシェア合計95%—外資系の信用格付業者一覧
海外の格付会社はグローバルな格付けを行っており、格付総数が多いのが特徴です。世界有数の格付会社として挙げられるのは以下の3社です。いずれも大規模な格付会社でビッグ3とも呼ばれ、この3社のみで米国の格付総数におけるシェアの約95%に達します。日本で信用格付業者として登録されている外資系企業はこの3社のみです。
※参考:SEC Staff Report on Nationally Recognized Statistical Rating Organizations Chart 7.
S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)
S&P(正式名称:S&P Global Ratings)は150年以上の歴史を持つ米国の格付会社です。128カ国で事業を展開しており、日本では1985年に本格的にサービスが開始されました(信用格付業者としての登録は2法人に分かれています)。米国では全格付数の約半数のシェアを誇っています。経済紙などではS&Pの表記が多く用いられています。
※参考:S&P Global Ratings ウェブサイト
Moody’s (ムーディーズ)
ムーディーズも米国の格付会社で、S&Pと並び世界2大格付け会社ともいわれています。米国はもちろんのこと、欧州やオーストラリアなど40カ国以上で事業を展開し、S&P同様1985年から日本でも格付けを行っています(信用格付業者としての登録は2法人に分かれています)。米国では全格付数の約3割のシェアを占めています。
※参考:Moody’s ウェブサイト
Fitch Ratings(フィッチ・レーティングス)
フィッチ・レーティングスはニューヨークとロンドンに本拠地を置く、上記2社に続く世界3番手の格付会社です。日本法人は2010年に設立されました。米国における全格付数に占めるシェアは1割強となっています。経済紙などではフィッチの表記が多く用いられています。
※参考:Fitch Ratings ウェブサイト
より広い国内企業・債券をカバー—日系の信用格付業者一覧
国内の格付会社は格付総数こそグローバルの3社と比較して少ないですが、国内の債券を集中的に評価しています。国内社債を投資先として考えている場合は、国内の格付会社の格付けが判断基準として役立つでしょう。
日系企業で信用格付業者としての登録を受けているのは以下の2社です。
格付投資情報センター(R&I)
R&Iは、国内公募債のカバー率は78%(2017年、起債額ベース)と日本一を誇る格付会社です。日本公社債研究所と日本インベスターズサービスが合併し現在の法人となっており、遡ると40年以上の歴史があります。公募債だけでなく証券化商品やファンドへの格付付与や、年金運用コンサルティングなどの事業も行っています。
※参考:格付投資情報センター ウェブサイト
日本格付研究所(JCR)
JCRは日本で格付けを公表している発行体の6割以上をカバーする、国内トップの格付会社です。設立から30年以上の実績を持ち、国内のみならず、アジアの新興国を中心とする各国の現地格付会社との連携を深め、グローバルな格付情報を提供する取組みを行っています。
※参考:日本格付研究所 ウェブサイト
しっかり説明の確認を—無登録格付業者
格付会社は上記で挙げた以外にも多種多様に存在しています。特に国内の格付けを見る場合は、無登録格付業者に注意しなければなりません。
日本では、2008年のリーマン・ショックをきっかけに市場の公正性・透明性を確保する必要性が高まったことから、2010年の金融商品取引法改正により格付会社の登録制が導入されました。格付会社は金融庁に登録し、その規制・監督を受けることとなっています。この登録を受けていない業者は「無登録格付業者」とみなされます。
ここで注意したいのが「無登録=危険」というわけではないということです。まず、上記で挙げた外資系大手3社の海外法人は日本においては無登録となっていることから、外国債券の購入検討時には、無登録格付けを参照する可能性が大いにあります。また、登録の有無に関わらず、全ての格付けは100%確実ではありません。
ただし、金融機関が投資家に対して無登録格付けを使用して金融商品の勧誘を行う場合、その格付けが無登録業者のものであることを説明する義務があります。もし無登録業者の格付けに関して納得のできる説明がない、あるいはその無登録業者が信用できないという場合は、購入を一度思いとどまり、入念に検討し直すことをおすすめします。
格付けも参考に、自分に合ったリスク・リターンの社債投資を
今回は社債の格付けについて解説しました。最後に簡単にまとめてみましょう。
- 格付けとは、債券や発行体の信用状態をランク分けしたもの
- 格付けを付与するのは専門の格付会社(民間企業)である
- 社債は格付けが高いほど利回りは低く、格付けが低いほど利回りは高くなる
- 社債の格付けが高いからといって、利益が保証されているわけではない
格付けは社債投資の判断基準として役立ちますが、格付けが高い社債が最適な投資先とは限りません。重要なのは格付けを参考として社債ごとの安全性や利回りを把握し、自分に合った投資先を選ぶことです。
自身の投資目的やリスクの許容度を明確にして、安全性と利回りのバランスが取れた、自分にとってベストな投資を行いましょう。