設立5周年記念インタビュー「社債発行で拡がる調達戦略と投資家とのつながり」
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Siiibo証券株式会社は2019年の設立から5周年、商号変更から3周年を迎え、これまでに1,500名を超える投資家ユーザ様と、スタートアップから上場企業まで幅広く多様な発行企業様をお繋ぎしてまいりました。
その中で、個人投資家から事業への高い共感を集められており、Siiibo証券での社債発行を繰り返しご利用いただいているVarinos株式会社様に、Siiibo証券をどのようにご活用いただけているか語っていただきました。
・平川 秀年 Varinos株式会社 取締役CFO
2006年、PwCあらた有限責任監査法人に入所。現場責任者としてメガバンクでの内部統制評価支援業務に従事。2015年、株式会社GA technologiesに転じ、取締役経営管理本部長として東証マザーズ(当時)への上場を実現。上場後はM&AならびにIRを担当する。2019年、株式会社キャスター取締役CFO、2020年、株式会社RECLO取締役CFOを経て、2021年、Varinos株式会社の取締役CFOに就任。公認会計士合格。
・小村 和輝 Siiibo証券株式会社 代表取締役CEO
ドイツ証券株式会社にてトレーダーとして国内外の社債、CDS、仕組債等のクレジット商品全般の取り扱いを経験。ブラックロック・ジャパン株式会社にて、国内の運用会社・公的金融機関に向けたリスク分析及び投資プロセスのアドバイザリー業務に従事した後、株式会社Siiiboを設立、代表取締役CEO就任。東京大学大学院工学系研究科修了(鳥海研究室)。
社会課題解決につながるVarinosの事業「ゲノム解析で不妊治療に貢献」
小村:Siiibo証券では、「社債」という手段を使って、投資意欲のある個人投資家と、資金調達ニーズのある企業をつなぐプラットフォームを運営しています。
社債とは、企業が資金調達を目的として発行する債券です。
資金の出し手である投資家様の目線でお話すると、社債投資はインカムゲイン型投資(保有額に応じて、予め決まった期間、決まった利息が返ってくる)という性質上、ある程度まとまった資金を投資されるケースが多いです。
また、自分の投資が何に役立っているのか実感しながら投資したい、というお考えをお持ちの投資家の方も多くいらっしゃいます。
Varinos様の不妊・少子化という大きな社会課題に向き合う事業には、投資家様から事業への共感や応援の声が多く寄せられた事がとても印象的でした。
貴社が取り組まれている事業について、改めてお聞かせいただけますか?
平川:Varinosは、ゲノム検査の開発と提供を行う臨床検査会社です。
病気の由来は、大きくは生活習慣によるものと、遺伝によるものに大別されますが、実際にはお一人お一人病気の状況が異なります。ここにゲノム解析技術を使うことで、オーダーメイド医療に貢献できるのではないかという考えから、研究開発と、医療現場への提供までを手掛けております。
その第一歩として、現在は不妊治療の領域に私達の技術を提供しております。
小村:少子化は数ある社会問題の中でも世間の関心が高い課題ですが、不妊治療はその少子化問題に直接影響する重要な事業ですね。
社債発行を個人投資家への限られた広報手段に活用。IRへの具体的なフィードバック機会にも。
小村:Siiibo証券では、社債を発行することで大口の投資家の方々に事業をご認知いただけるのですが、実際にご利用される中で実感はありましたか?
平川:そうですね。私達が直接コンタクトしている「お客様」は医師の方々になるのですが、私達の提供事業がとても新しい領域なので、事業内容をご理解いただくことが難しいケースもあります。ですがその反面、先進的な医療に取り組まれている医師の方からは、大変高い関心をお持ちいただいています。
患者様から見ると私達は医師の裏側にいるため、大々的な広報活動がしづらい上に、薬機法という制約も重なり、不妊治療の当事者である患者様に直接アプローチできる機会はなかなかありませんでした。
患者様となる個人に対してどうPRできるか、と考えていた時にSiiibo証券のサービスに出会いました。Siiibo証券を活用するメインの目的は資金調達でしたが、限られた広報の一つの手段としても良い機会になったのではないか、と考えています。
実際に、初めての社債発行後のタイミングで、投資家さんがX(SNS)で 「最近Siiibo証券がおすすめで、自分はVarinosを応援の気持ちで買ってるぞ」 みたいな感じでつぶやいてくださって。広報的な効果を感じました。
小村:確かに、貴社の社債を購入された投資家様からのフィードバックでは、「不妊治療が大きな社会課題であることから投資をしました」「不妊治療を応援したい」「少子化問題の役に立ちそう」といったお声があります。
他社様ですと「利回りが大きい」「面白そう」といったお声が比較的多く挙がるなか、貴社の社債を購入された投資家様からは、事業を社会課題への対応と捉えたフィードバックが多かったのが印象的です。それから、女性の投資家からのお申し込みも多い傾向でした。
平川:不妊には様々な要因がありつつも、働く女性が増え結婚年齢が遅くなり、仕事で活躍される一方で不妊治療に悩まれる方は多くいらっしゃいます。Siiibo証券の投資家層の方々にも、Varinosがお役に立てる方がいらっしゃるのではないか、と思っています。
小村:Siiibo証券をご利用の投資家様は40~50代の方が半数以上なので、年代的にも不妊治療や少子化の問題を自分事と捉えて、共感のお声が集まったのかもしれませんね。
平川:「ゲノム解析技術自体に将来性を感じたため」というフィードバックもあり、投資家の方々がIRをしっかりご覧になられている事も伝わってきました。
小村:弊社の投資家様は株式投資経験もある経験豊富な方が多いので、Varinos様が将来上場された後に、株主になられる可能性は十分あるのでは、と思います。また、投資家様には医師の方も少なからずいらっしゃるので、その方々へ潜在的に認知を高める一助にもなれたのでは、と感じています。
平川:個人の方々へのアプローチ手段が限られている中で、このような具体的なフィードバックが得られるほどの情報提供ができたのは、ありがたいと思います。
Siiibo証券を選んだのは「資金調達手段の確保と、個人投資家へのアプローチ」
小村:Varinos様が一番最初にSiiibo証券で社債を発行されたのは2023年でした。ご利用いただけた経緯をお聞かせください。
平川:2022年の9月にエクイティ調達が完了していました。
資金のうち、エクイティで集めたものは投資に回して、設備資金や運転資金は主に銀行から借りる、と使い分けている中、おかげさまで投資資金の調達はできたものの、回収までの長い期間に充てる資金使途に、手立てが欲しいと感じていました。
株式投資家さんから集めるのも一つの手ではありましたが、使い道に応じて然るべきところから集めたい、と考えていた中でSiiibo証券の私募社債という手段を知り、当時のニーズと一致しました。
小村:ありがとうございます。調達手段を資金使途としっかり結びつける重要性は、私もスタートアップの資金調達をサポートさせていただいている立場から同じように感じています。
平川:ちょうどコロナが終わって数年というタイミングもあって、銀行からの借り入れハードルが上がっていました。銀行としてはコロナの時に借り入れた資金を完済するか、返済目途が高くないと貸さない、という傾向があり、別の手段を探していました。
もう一つの理由として、投資家の方々が個人であるところも決め手になりました。
IPOを目指す過程では、何かしら個人の投資家層に直接働きかけて認知度を高めることが必要になりますが、バイオ領域は認知を広げるのが難しい面もあります。
通常の上場企業では機関投資家が60%程を占めるのが一般的で、そのため機関投資家に対してのメッセージが重要なのですが、日本のバイオ企業では個人投資家が90%程、機関投資家は10%程という構造で、メインとなる個人投資家に対してどうメッセージを発信していくのかを課題に感じていました。
個人投資家に向けたアプロ―チはIPO後にするしかないと考えていた中で、IPO前にアプローチできる事は大変魅力的に感じました。
小村:先進的で専門性が高くなるほど、個人の方々に事業をご理解いただく難易度も上がると考えます。情報開示先の投資家数が限定される私募社債の仕組みは、Varinos様のような境遇の企業様にとって、よいトライアルの機会になりそうですね。
社債を複数回発行いただいていますが、発行回数を重ねてみていかがでしたか?
平川:繰り返し便利に使わせていただいています。
エクイティ調達は数年に一度のイベントで、簡単に実施できるものではありません。事業者は資金の調達手段を複数持っておきたいものです。
上場すれば様々な資金調達手段を用いてお金を集めるという選択肢もありますが、現時点では少ないですし、今後を見据えるとブリッジ的な資金も必要になると思います。
Siiibo証券での社債発行は現在3回です。初回と2回目以降では、コミュニケーションを始めてから発行・着金までの期間が短くなった実感があり、非常にありがたいです。
小村:証券会社として、会計の数字がしっかりしているかは慎重に拝見する必要がありまして、初回発行の際には財務デューデリジェンスにご対応いただくのですが、2回目以降は省略することが多く、初回よりもスムーズに短い期間で社債発行ができる状況です。
ベンチャーデット市場におけるSiiibo証券「企業のクレジットリスクを金利でシンプルに表す」
小村:ここからは、少し視野を広げてベンチャーデットについてお伺いします。
平川様は、企業上場時の管理本部長を務められたり、CFOの職務も様々な企業で歴任されていらっしゃいますが、その立場からご覧になるとベンチャーデットはどのように見えているでしょうか?
平川:ベンチャーデットという言葉への関心の高まりは感じていますが、実際の使い勝手はなかなか限定されているのが実情だと感じています。
実際にデットで資金を集める場合は銀行が主体となりますが、どうしても自己資本比率や債務超過にならないかどうか、というハードルがセットで付いてきます。
最近ではSO(ストックオプション)付きの融資も流行っていますが、発行企業の立場からすると、SOは簡単に付けたいものではありません。
個人的な意見になりますが、金利で表現しきっていないリスク・リターンを、SOによるキャピタルゲイン(※)を併せて調整するという考え方は、純粋なエクイティ投資家にもデット投資家にもならずに、良いところだけを取りたい意図を感じてしまいます。
言葉の流行に対して、実際の利便性が追いついていない印象ですね。
(※)金融商品を売却することで売買差益を得る事
小村:私も似たことを感じています。
Siiibo証券では一定純粋なデットにこだわっています。発行企業様にとっては経営権を希薄化させない資金調達手段であり、資金の出し手となる投資家様にとってはインカムゲイン型投資のニーズに応える投資商品である、という構図です。
企業のクレジットリスクを金利によってシンプルに表現していこうという想いで商品を組成しています。
平川:金利は全般的に上がりはじめましたよね。
小村:マクロ環境もあって社債の人気が高まり、金利も全般的に上がりつつあります。大手企業の個人向け公募債は1兆円規模で発行してもすぐに完売してしまうほど人気があり、買いたくても買いづらい状況です。
投資家にとってインカムゲイン型商品のニーズは強いと感じています。
投資家側から見ると、ある程度の利率を確保しようとすると外貨建ての債券が選択肢に上がりますが、どうしても為替リスクが伴います。為替リスクがない円建てで、5~6%程度の金利がつく商品は他にはなかなかないので、投資家様のニーズに合うのでは、と考えています。
ベンチャーデット提供各社の中でのSiiibo証券の位置づけや印象はいかがでしょう?
平川:個人がベンチャーに投資できる、という点においては他社サービスも出ています。ただ実態はエクイティ要素を持ったものをクラウドファンディングに近い形式で提供したり、他で提供していた商品をベンチャーへ応用したような、ファクタリングに近いものだったり。
デット領域でのベンチャーに向けた純粋な支援というところでは、Siiibo証券オンリーではないでしょうか。有価証券届出書の提出義務などの開示規制が一定緩和された方法で個人から投資を募れるのは、個人的にも利便性が高いと感じています。
小村:そう言っていただけて、大変光栄です。ありがとうございます。
「バイオなど新技術領域にお勧め。IPOの前準備で投資家リサーチにも活用できる」社債を活用できる企業と今後の期待
小村:社債発行を何度かご利用される中で、どういった企業に社債発行をお勧めしたいとお感じになりましたか?
平川:私達が手掛けるバイオ領域もそうですが、新しい技術を出していく事業領域で、投資資金の回収に一定期間が必要な企業にとっては、社債の性質がとても合うのではないでしょうか。
あとは、IPOを控えている企業など、個人かつ経験豊富な投資家の方々がどういった共感を持ってくださるのか、投資家の期待感を知りたい、という企業にも良いと思います。
IRを作ってみたけど投資家に全然刺さらなかった、というケースも考えられます。
Siiibo証券の社債発行は、新技術や新しいサービスを持つ企業さんにとって、IRを通してきっちり事業を説明できるかどうかを知る手立てにもなると思います。
実際に使って感じたのは、必ずしも社債の募集枠が全部埋まるわけではない、という中で、投資家様からどのぐらい期待値があるのかを実際に確かめられた、という点も良かったですね。
小村:実体験に基づくご感想、ありがとうございます。
平川:Siiibo証券には、世の中に無いものを出してもらいたいな、と期待しています。
恐らく、証券会社として儲けるためだったらもっと早い別の手段も考えられる中で、着々と今の事業を進めていらっしゃいますよね。これからも、誰もやっていない、今までなかったものをどんどん出していただきたいな、と思います。
小村:本日は貴重なお話をお伺いさせていただきありがとうございました。
設立5周年、サービスローンチから3周年、Siiibo証券の歩みはまだ始まったばかりです。
**投資家様にとっては、投資の意義を感じていただける、多様な企業への投資機会、
発行企業様にとっては、機動力はもちろん、企業のファンづくりにも貢献できる資金調達手段**としてご活用いただけるよう、これからも頑張ってまいります。
そして、貴社の事業に寄り添っていくパートナーとしても歩んでいけたらと考えております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。